絵本翻訳の楽しさ

海外で出版された絵本を翻訳するのが絵本翻訳」

洋書を日本語に訳す出版翻訳の中でも、海外で出版された絵本を翻訳するのが「絵本翻訳」です。

皆さんの中には、絵本翻訳ときいて、子供が手に取って読む書物なので比較的優しい作業なのでは? と思う方もいるのかもしれませんね。
「絵本」というと、その内容のシンプルさから、翻訳も簡単なのでは?と思われるかもしれませんが、個人的には、むしろその逆だと感じています。

子どもを中心とした読み手に、想像を膨らませる「余白」をあえて残すため、シンプルな文章と絵で表現される世界観。

書かれている文章よりも、

「行間を読む」ことが多いのも絵本の特徴ではないでしょうか。

絵本では、みなさんもご承知の通り、対象年齢が設けられています。対象となる子どもの語彙力にあわせた言葉で、いかにわかりやすく面白く、想像力を掻き立てるか。シンプルであるが故に、とても難しいのです。

一番最初の絵本翻訳

私が翻訳者としてまだ駆け出しだった頃、とある出版社に務める知人男性から「絵本を訳してみないか」と声をかけていただいた事がありました。それが私が絵本翻訳に携わるようになったきっかけです。

自分に務まるだろうかとドキドキしながらも、そのお誘いをお引き受けしたことを今でも覚えています。

翻訳の講習で学んだことを参考にしつつ、辞書を片手に原文を読み込み試行錯誤を重ねる日々。やっとの思いで完成させたのですが、出版社の彼からは「作品の情景や、ストーリーが本の中から浮かび上がってくるようなワクワク感が伝わってこない」とあっさりボツの返事が返ってきました。

その時の悔しさと言ったらありませんでした。しかし今思えば、当時の私の翻訳はまだ「言語変換」の域を超えることが出来ていなかったのです。

そのことがあってからは、「多角的に原文にアプローチすること」を信念とし、絵本翻訳という仕事に向き合っています。

翻訳者によって、同じ原文でも様々な表現があり、それらを読み比べてみると、また新たな気づきがあったりします。絵本の翻訳には、その過程で、沢山の発見と喜びがあり、出来上がった翻訳を聞いてくれるであろう子供たちの顔を想像すると、とてもやりがいがある仕事だと思います。

英語力だけでこなせる仕事ではないからこそ、その奥の深さに私は魅了されているのです。

「英語が好きだし、絵本も好き」など、絵本翻訳に興味を持たれたなら、是非この奥深い世界に触れてみて欲しいと思います。